Endless Love
そして今日もまた、あなたと過ごす夜がやってくる・・・。
漆黒の闇と物音一つしない夜の静寂に包まれた部屋を、ほのかに照らすナイトテーブルの明かり。
まるでベッドの上で睦み合う二人を邪魔しないように、見守るようにと、控えめにオレンジ色の光を放っていた。
額が触れ合うほど目の前近くにある月森の顔。
ほんのりとオレンジのライトが彼の瞳に映って、温かく染まった視線が組み敷いた香穂子に注がれる。
視線が絡み合ったのは、ほんの僅かな間。
頬をゆっくりと撫でながら包みこんだ月森が、そっと顔を寄せてきた。
唇が触れてくる予感にそっと目を閉じると、瞼の裏にまだオレンジ色の明かりが残ってほの明るい。それが暗く陰ると、彼の唇が押し当てられた。
まだキスは乾いているけど、これからの始まりを告げるキスに幾度も過ごした夜の記憶が身体に甦ってきて、私の心は期待に震え、少しずつ潤み始める。
軽く押し当てられた唇はすぐに離れたけれど、吐息が触れてもう一度唇が重ねられた。
今度はすぐには離れなかった。
柔らかくて温かい感触が何度か押し当てられ、濡れた舌でゆっくりとなぞるられる。誘われるままに薄く開いた唇の隙間を舐められると、溶かされるように甘い痺れが駆け巡った。
歯列をかすめて口内を更に奥へと入り込んでくる舌に、呼吸ごと深く絡め取られて息も出来ない。
口の中から直接耳に響く水音が身体を熱くさせて、熱に浮かされたように霞み始める意識の中で、多い被さる彼の背にしがみつく手に少しずつ力を込めながら、私は夢中でキスに答えていった。
長い口付けが終わって、互いに気持ちが落ち着いたのか、ようやくゆっくりと目を合わすことができた。
ふわふわして浮かんでしまいそうな心地よさと照れくささもあって、思わず微笑んでしまう。そんな私を見下ろす彼の顔も、どこかはにかんだように目を細めていて、ちょっと心がくすぐったくて暖かい。
額、瞼、目尻、耳朶、そして首筋・・・・。
優しく柔らかいキスの雨が降り注ぐ。
首筋を辿り柔肌に降りた唇が、キスの代わりに強く吸いつき次々に赤い花を咲かせてゆく。翌日になってこの花が消えてしまっても、心にまで深く染みこんで見えない跡を残すようにと。
そうするうちにも月森の手は香穂子の身体を、上質のシルクのように滑らかな肌の感触に酔い浸るように彷徨っていく。ヴァイオリンを弾く為に硬くなった指先が肌を掠めるたびに、香穂子に微かな刺激を与えて甘い吐息を引き出していった。
彷徨う手は胸を包み込み、指先が尖り始めた部分を弄ぶ。耳をかすめる彼の吐息が温度を上げるに連れて、手の動きも次第に大胆なものなっていった。大きな手に包まれた胸を揉みしだかれ、硬くなった尖りを強く捏ね回されて・・・・・・。襲い来る強い感覚から逃れるように身を捩り、香穂子はたまらず声を上げて大きく身体を仰け反らせた。
「ん・・・・・や・・ぁ・・・っ・・・」
力が・・・抜けていく・・・・・・・。
手が腹部を滑り、力の緩んだ脚の間に入り込んできた。
手の平で中心を探るように愛撫してくるその甘い刺激が痺れとなって、全身を駆け巡る。
「ん・・・はぁっ・・・・・・・・」
強く・・・弱く・・・力を加減しながらの手の動きに香穂子の身体が震え始める。
追い立てられるほどに浅く早くなる呼吸に甘さと艶が混ざり始め、それが一層月森を熱く煽らせていく。
逃れたい・・・。
でも、もっと欲しい・・・。
二つの意識が激しく心の中で交差する。しかし身体を捩ろうにも腰を強く捕まれて逃れることも出来ない。
逃すことの出来ない熱は、高まるばかりだ。
「・・・・・・・・!」
不意をつくように指が中に入り込み、息を詰めて肩を強く掴んだ。押し広げられた名所から厚い門が滴り落ちて、彼の手を濡らしていくのが分かる。そうして耐えないと、みっともない程に声を上げていまいそうだったから。
差し入れられた指を曲げたり伸ばしたり、掻き回して内部を擦り上げてくる。弱いところを引っ掻くように刺激されて溢れる声を止めることが出来ない。
こんな時彼がどんな顔で私を見つめているか知りたかったけど、確かめる余裕すらない。
呑み込まれないように快楽を追うのが精一杯で、何も考えられない・・・・・・。
すでに私の中に羞恥心は消えて無かった。
「ん・・・・あぁっ・・・・」
彼の濡れた指が壁をかき分けて触れてくる。指を中で動かされたまま、今度は他の指が硬くなった所に触れて撫で回してきた。中を探る指と敏感な突起を探る指と両方に追いつめられて、しかも感しやすい場所ばかりを責め立ててくる。もう、どうすることも出来ずに、ただ声を上げ続けるしかなかった。
唇を割る甘く熱い吐息と艶声に混じって響く水音は、益々高くなっていく。
静かな室内だけに余計に響く水音が、互いの中にに更なる熱を生み出していった。
すっかり馴染んだ月森の指は、結婚して共に暮らすようになってから毎夜のように重ねた行為によって敏感な場所を知り尽くしており、思うさまに香穂子の内部を掻き乱す。
もう・・・おかしくなりそう・・・・・・・。
私を組み敷く彼の肩先を強く掴んで指を立てる。
どうにかして耐えないと、すぐにおかしくなってしまいそうだった。
今日の彼は、いつもと違う気がする。行為自体は変わらないのに・・・・・。
いつもよりずっと・・・容赦が・・・ない・・・・・・。
普段なら香穂子の様子をみながら緩急つけた愛し方をする月森が、今日は休み無く香穂子を責め立てている。
まるで香穂子の抑制を失わせて、より一層艶やかな声を引き出そうとするかのように・・・。
もう・・・だめ・・・・・・・。
押し寄せてくるものに、今にも呑み込まれてしまいそう・・・。
香穂子の声質が徐々に変わってきたことに気付いた月森が、己の欲を制しながらその動きを止めた。
昇り詰める寸前で動きを止めた月森。
突然行為を中断された理由も分からず、今度は燻る熱のもどかしさをどうにかしたくて身体を捩る。
さすがにねだることも出来ずにただ息を荒くしながら、自分を見つめる彼の熱い瞳を見つめ返した。
身体の熱が引き始めれば、濡れた音を立てて再び指が動き始める。
そして昇り詰める寸前で引き戻されて・・・・・・・何度となく繰り返されるその行為。
もどかしさと中途半端な快感に必死に耐えながら、ひたすら荒い息を繰り返す。
もう、四肢の自由が利かなくなり始めていた。
「ど・・・・うして・・・・・・っ!」
涙を一杯に溜めた香穂子の大きな瞳が、月森を真っ直ぐに捕らえた。
いつもよりずっと激しく攻めてくるくせに、焦らしてばかりで・・・ずるい・・・よ・・・・・・。
香穂子の心を悟った月森はふわりと穏やかに微笑むと、汗で額に張り付いた髪を払いながら、あやすように労るように、その額に優しくキスをした。
「夜は、長い・・・・。まだ始まったばかりだから、急ぐ必要はない。もっと一秒でも長く、君を愛していたいんだ」
「蓮・・・・・・」
身体を合わせることが、快楽だけでなく温かくて幸せな気持ちを彼が私にもたらしてくれる。
好き・・・うぅん、少し違うかな。そうだ・・・愛してる・・・・その想いがあるから、全てを受け入れられるんだと思う。
こんな夜なら醒めずに一晩中浸っていたい。
どんなに求め合っても満足することなんてないんだから、ずっとこうして求め合っていたい。
いつも優しい彼が、心の奥底にしまい込んでいる激しい感情。
それが熱さとなって私の肌を焼き、心まで染みこんで疼かせる。
想いの限りで求められている事を全身で感じるから、私も精一杯応えたい。
そして私の想いも伝いたいと思う・・・・。
力の入らない両腕を何とか持ち上げて目の前にある月森の後頭部に絡め、自分の方へと引き寄せる。
香穂子の唇が月森の唇に押し当てられた。
一度離して彼を見ると、滅多にない私からのキスに、驚いたように目を丸くしていた。
その様子が、なんだか可笑しいような可愛いような。
くすりと笑ってもう一度唇を重ねると、今度はすぐに応えて私の舌を誘って来た。
とろけるような口付けに、二人の身体が再び熱く火照っていく・・・・・・。
「蓮・・・・お願い・・・・・・・・」
掠れた声と甘い吐息で囁いた。
与えられる快感は確かに凄まじい程だけど、これだけは何度繰り返しても満足できないと身体が知っているから、もっと欲しい・・・と焦れてこの先を訴える。
温かくて幸せな気持ちも快楽も、この身と心にに得るなら彼と一緒がいい。
「・・・・・・・・!!」
上から圧しかかってきた彼に脚を掴まれると、抱え上げられた脚を身体で押さえ込まれながら、貫かれた。
襲いかかる圧迫感と、溶けてしまいそうな熱さに身を灼かれながら思う。
これはまだ、はじまりなのだと。
体重をかけながら少しずつ一番奥深いところまで重なった所で、身体を覆い被さるように倒してきた。
「香穂子・・・・・・・・・・・」
顔が寄せられ呼びかけられる名前と共に、普段の生活の中では絶対に聞くことが出来ない、隠しきれない熱を孕んだ彼の睦言が耳朶に吹き込まれる。
耳から入り込んだ掠れて艶の混じった声が、全身に甘い痺れとなって広がっていく。
同時に内部をきつく締め上げて、彼が耐えるように息を詰める気配が伝わった。
「・・・・っつっ・・・・・・!」
瞬間に襲いかかった刺激をやり過ごし、香穂子の内部が収縮し始めたのを感じた月森が、彼女の細腰に手を添えた。自らの動きに合わせて香穂子の身体を揺らすと、いくらも経たないうちに彼女の唇から熱い吐息が割り始める。
揺さぶられる動きに合わせて仰け反るしなやかな身体・・・・。
目の前に晒される、赤い花の咲いた白い喉・・・。
突き動かし、動かされて乱れる。
夜の静けさを塗り替える、熱い吐息と濡れた水音、互いの身体がぶつかり合う音・・・・。
「香穂子・・・・」
「れ・・・ん・・・・」
さまざまな音の合間に、彼が私を呼ぶ熱く掠れた声が耳に届く度に、朦朧とした視界に彼を捕らえて、同じように応える。掠れて殆ど聞き取れない吐息混じりの声ながらも、しっかりと唇の動きで・・・・。
熱に浮かされたように、呼ばずには・・・応えずにはいられない。
身体を繋いだまま途中何度も体勢を変えて、互いを求め合って抱き合った。
激しい波の中へと二人で身を投じ、浅く深く、いくつもの頂点を共に通り過ぎていく。
汗を飛び散らせながら絡み合った身体が離れた時には、窓の外が白んで薄明るくなり始めていた。
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